町工場の親父が教える、お金よりも大切な信用という財産
「お金よりも大切なもの」って、何だと思いますか?
この質問、SNSで投稿したら絶対にバズりそうですよね。
でも今回は、バズ狙いじゃなくて本気で考えてみたいんです。
実は先日、東京・大田区の町工場を取材していて、ある親父さんに言われた言葉が頭から離れないんです。
「佐藤さん、信用ってのはな、お金じゃ買えないけど、お金よりも価値があるもんなんだよ」って。
最初は「昭和のおじさんの根性論かな?」なんて思ったんですが、よくよく聞いてみると、これが現代のスタートアップにも通じる深い話だったんです。
資金調達の現場を見ていると、ピッチデックやKPIばかりに夢中になって、もっと大切な「信用」を軽視している起業家が多いなって感じることがありませんか?
今回は、町工場の親父が半世紀かけて築いた「信用」という財産について、FinTech世代の私たちが学べることを整理してみました。
目次
昭和の職人が築いた信用の重み
「ツケが効く街」の時代背景
大田区の町工場街を歩いていると、今でも「○○商店」みたいな看板をよく見かけますよね。
あの看板の裏には、実は「ツケが効く関係」という、現代では考えられないほど深い信頼関係があったんです。
昭和30〜40年代の町工場では、部品の納入から工具の購入まで、ほとんどが「月末締め、翌月払い」の掛け取引でした。
今でいうところの与信管理ですが、当時は信用情報機関もクレジットスコアもありません。
じゃあ何を基準に「この人になら貸しても大丈夫」って判断していたのか?
それが「人となり」と「これまでの実績」だったんです。
「あの親父は約束を守る人間だから、多少無理を言っても大丈夫」
「○○さんの工場は、今まで一度も納期を破ったことがない」
こういう評判が、町工場のコミュニティ内で共有されていました。
現代のSNSでの口コミ拡散とは比べ物にならないほど、リアルで濃密な情報ネットワークです。
納期を守る、それが最大の信頼
「納期は絶対」——これが町工場の鉄則でした。
でも、なんで納期がそんなに重要だったのでしょうか?
答えは単純で、納期を守れない工場は、取引先から二度と仕事をもらえなくなるからです。
町工場の世界では、一つの案件が次の案件につながります。
「今回も期日通りに仕上げてくれたから、次の大きな案件もお願いしよう」という流れが自然にできていたんです。
現代のスタートアップでいえば、最初の小さなPoCから始まって、段階的に契約規模が大きくなっていく感じに似ていますね。
逆に、一度でも納期を破ると?
町工場のネットワークはかなり狭いので、「あそこは納期が守れない」という評判があっという間に広がってしまいます。
町工場の信頼構築プロセス
- 小さな案件を確実にこなす
- 期日を守り、品質基準をクリアする
- 口コミで評判が広がる
- より大きな案件を任せてもらえる
- 長期的なパートナーシップに発展
このサイクルを何年もかけて積み重ねることで、「あの工場なら安心」という無形の財産を築いていたんです。
「モノじゃなくて人を見ろ」の哲学
町工場の親父さんたちがよく言う言葉があります。
「設備や技術は金があれば買えるけど、人は買えない」って。
これ、めちゃくちゃ深い言葉だと思いませんか?
実際に取材で訪れた大田区の町工場では、最新の機械を導入したばかりの新興工場よりも、古い設備でも腕の良い職人がいる老舗工場の方が、取引先からの信頼が厚いケースをたくさん見ました。
なぜかというと、機械は故障するし、技術は時代とともに変わるけど、「この人なら何とかしてくれる」という信頼は不変だからです。
町工場の世界では、突然の仕様変更や無理難題への対応力が求められることが多いんです。
そんな時に頼りになるのは、最新設備ではなく「何とかしてやろう」という職人の心意気と、それを支える長年の信頼関係なんですよね。
スタートアップ世代が見落としがちな「信用」の本質
KPIや資金調達だけじゃ足りない理由
さて、ここからが本題です。
私たちFinTech世代って、つい数字で表せるものばかりに注目しがちじゃないですか?
MAU、LTV、CAC、ARR…確かに大切な指標だけど、これだけじゃビジネスは続かないんです。
2024年の国内スタートアップ調達動向を見ると、総調達額は7,793億円で前年比わずか3%増。
一方で、調達社数は増えているものの、IPO環境の厳しさで投資家の選別がかなり厳しくなっています。
こんな環境だからこそ、VCが注目するのは「この経営者なら投資しても大丈夫」という人への信頼なんです。
でも実際のピッチを見ていると、多くの起業家が数字ばかりアピールして、「なぜこの人に投資すべきなのか」という根本的な信頼構築を軽視しているように感じます。
ピッチデックに書けないもの、それが「信用」なんですよね。
SNSで築く「信用」とは似て非なるもの
「SNSでフォロワー10万人います!」「バズった投稿があります!」
確かにSNSでの影響力は現代では重要です。
でも、SNSの「いいね」と、ビジネスにおける「信用」は全くの別物だということを理解していますか?
SNSでの信用は、基本的に一方向的で表面的です。
フォロワーは増やせるし、バズも作れる。
でも、実際にお金を払ってサービスを使ってくれるか、長期的にパートナーとして付き合ってくれるかは別の話。
一方、町工場で築かれる信用は双方向的で継続的なもの。
「この人となら長く付き合える」という確信に基づいています。
実は最近、この違いを痛感する出来事がありました。
SNSで有名な起業家が、実際のビジネスでは約束を守らず、取引先とトラブルになった事例を知ったんです。
SNSでは相変わらず「成功している感」を演出しているけど、業界内での評判は最悪という…。
SNSは「見せるため」の信用、ビジネスは「積み重ねる」信用。
この違いを理解せずに事業を進めるのは、かなりリスキーだと思います。
長期的な関係性を築くための”目に見えない資本”
経済学でいう「社会関係資本(ソーシャルキャピタル)」って知っていますか?
簡単に言うと、人とのつながりや信頼関係が持つ経済的価値のことです。
町工場の親父さんたちは、この概念を理論的に知らなくても、実践的に活用していたんですね。
例えば:
- 困った時に無理を聞いてくれる取引先
- 新しい技術や市場情報を教えてくれる同業者
- 人材を紹介してくれるネットワーク
- 資金繰りが厳しい時に支えてくれる金融機関
これらは全て、長年の信頼関係があってこそ得られるものです。
お金では買えないけど、お金以上の価値を生み出す「資産」なんです。
現代のスタートアップでも同じ。
最初のユーザー、最初の投資家、最初のパートナー企業…全て人との信頼関係から始まっています。
でも、短期的な成果を求められる現代のビジネス環境では、こうした「時間をかけて築く信用」が軽視されがちなのが現実ですよね。
若手経営者に伝えたい、信用構築のリアルなステップ
一発の大成功より「小さな約束を守る」こと
「ユニコーン企業になりたい!」
「上場して一発逆転したい!」
その気持ち、すごくわかります。
でも、町工場の親父さんから学んだ最大の教訓は、「小さな約束を積み重ねることの重要性」でした。
実際に信用を築いていくプロセスを見てみましょう:
第1段階:約束したことを確実に実行する
「来週までに資料を送ります」→確実に送る
「月末までに検証結果を報告します」→期日通りに報告する
「予算は○○万円以内で」→予算を守る第2段階:期待を少し上回る
資料と一緒に追加の提案も添える
報告書に次回の改善案も含める
予算内で、想定以上の品質を提供する第3段階:継続的な関係へ発展
定期的な進捗共有の習慣化
課題の早期発見と対策提案
長期的な戦略パートナーシップ
この積み重ねに「近道」はありません。
でも、確実に「この人となら安心して仕事ができる」という評価につながります。
ノーギャラ案件でも得られる”未来の配当”
「タダ働きなんて絶対しない!」って思っていませんか?
でも、町工場の世界では「今回は勉強させてもらう」という考え方が根付いています。
これ、実はめちゃくちゃ戦略的なんです。
ノーギャラ案件で得られるもの
- 実績とポートフォリオ:後の営業材料になる
- スキルアップ:新しい技術や知識の習得
- ネットワーク拡大:紹介による新規案件獲得
- 信頼残高の蓄積:将来の大型案件につながる
ただし、何でもかんでもタダでやるのはNG。
戦略的に選んだ案件で、明確な目的を持って取り組むことが重要です。
私自身も、FinTech系のメディアで最初は無償でコラムを書いていました。
その時の編集者さんとのつながりから、今では複数の有料案件をいただいています。
「今すぐのお金」と「将来の信用」、どちらを取るかの判断。
これができる経営者が、長期的に成功していくんだと思います。
レビューよりも重要な「顔の見える信頼関係」
オンラインレビューやアプリの評価って、確かに重要ですよね。
でも、本当に大切なのは「この人なら」と名前で覚えてもらえる関係なんです。
町工場で取材した際に印象的だったエピソードがあります。
ある親父さんが「○○さんの工場なら間違いない」と、具体的な人名で紹介してくれたんです。
会社名じゃなくて、人の名前で信頼されている。
これこそが、デジタル時代だからこそ価値のある「アナログな信用」だと思いませんか?
デジタル信用 | アナログ信用 |
---|---|
星5つのレビュー | 「○○さんなら安心」 |
フォロワー数 | 「あの人に聞いてみよう」 |
いいね数 | 「困った時は○○さん」 |
レビューは操作できるし、フォロワーは買えます。
でも、「困った時に真っ先に連絡される人」になることは、お金では買えません。
そして、この「顔の見える信頼関係」こそが、長期的なビジネスの基盤になるんです。
テクノロジー時代の信用:変わる形、変わらない本質
スコア化される信用とその限界
2024年11月28日から、日本でも個人の信用スコアを閲覧できるサービスが始まりました。
CICが提供する200〜800点のスコアで、自分の金融取引での信用力がわかるんです。
また、J.ScoreやLINE Scoreなど、AIを活用した信用スコアサービスも普及しています。
博報堂の調査によると、信用スコアの社会浸透について57%が賛成、43%が反対という結果も出ています。
確かに便利です。
数値化されることで、客観的な評価ができるし、金融サービスの利用もスムーズになります。
でも、スコアでは測れない信用の側面があることも忘れちゃいけません。
例えば:
- 困難な状況での対応力
- 創造性や発想力
- チームワークや協調性
- 長期的なビジョンの実現力
これらは数値化できないけど、ビジネスの成功には不可欠な要素ですよね。
町工場の親父さんが言っていた「人を見る目」って、実はこういう数値化できない部分を見抜く能力のことだったんだなと、今になって理解できました。
フィンテックがつなぐ”デジタル信用”
一方で、フィンテックの発展は新しい信用構築の可能性も生み出しています。
ブロックチェーン技術を使った改ざん不可能な取引履歴。
API連携による銀行口座やクレジット履歴の自動共有。
AI分析による行動パターンの信用評価。
これらの技術により、従来よりもリアルタイムで正確な信用情報の共有が可能になりました。
特に注目しているのが、取引履歴のトレーサビリティです。
ブロックチェーン上に記録された取引履歴は後から変更できないので、「確実に約束を守ってきた実績」を客観的に証明できます。
でも、技術があっても結局は「信用に値する行動を継続すること」が前提。
テクノロジーは信用を可視化・効率化するツールであって、信用そのものを作り出すわけではないんですよね。
海外事例に学ぶ、テクノロジー×信頼の最前線
中国の「芝麻信用(アリペイ)」って知っていますか?
アリババグループが提供する信用スコアシステムで、買い物履歴から交友関係まで、あらゆるデータを分析して信用度を算出しています。
高スコアの人は:
- 公共サービスの優先利用
- 賃貸契約時の保証金免除
- 金融サービスの優遇条件
- 婚活サイトでの優遇表示
など、実生活のあらゆる場面でメリットを享受できます。
一方、アメリカではFICOスコアが50年以上前から信用評価の基準として機能しています。
住宅ローンの金利から保険料まで、ほぼ全てがこのスコアで決まるといっても過言ではありません。
日本はこれらの国と比べて信用スコアの普及が遅れていますが、だからこそチャンスでもあります。
先行事例の良い部分を取り入れつつ、日本らしい信用システムを構築できる可能性があるんです。
例えば、個人情報保護を重視した設計や、地域コミュニティとの連携など、日本の文化や価値観に合った仕組み作りが期待されます。
まとめ
町工場の親父さんに教わった「信用」の話、いかがでしたか?
最初は「古臭い考え方かも」と思っていた私ですが、実際に話を聞いてみると、現代のビジネスにも通じる普遍的な価値があることがわかりました。
お金があっても、信用がなければビジネスは続かない。
これは昭和の町工場でも、令和のスタートアップでも変わらない真理です。
KPIや資金調達ももちろん大切ですが、「この人となら長く付き合える」と思ってもらえる信用の構築こそが、持続可能なビジネスの基盤になります。
今日からできる信用の積み上げ方:
- 小さな約束を確実に守る
- 期待を少し上回る成果を出す
- 長期的な視点で関係性を築く
- 顔の見える信頼関係を大切にする
- テクノロジーを活用しつつ、人間らしさも忘れない
テクノロジーが進化しても、結局はビジネスって「人と人とのつながり」から始まるんですよね。
皆さんも、次回商談や会議に参加する時は、「信用残高を増やせているかな?」って視点で振り返ってみてください。
きっと新しい発見があるはずです!